「ワインデイズ」レーベル

----- スイングジャーナル2004年12月号より -----
ディスク評

新鋭バイブ奏者によるユニークなデビュー作
 美しい響きである。バイブのふくよかなサウンドは低音を生かしてこそのものだ。絵里というバイブ
奏者は国立音大で学んだだけに、ジャズというよりクラシックが本職なのだろう。飛び切りのジャズ作
品ではないけれど、ほどよくジャジーな響きになっているところが、バイブの音色とあいまって聴き応
えのある作品に仕上がった。“さながらオルゴール”というキャッチ・コピーがアルバムにはつけられ
ている。まさにその通りだ。オルゴールの響きが持つ夢心地の情景。心に安らぎを与えてくれる空気。
そんなムードがこの作品からは伝わってくる。ひとり二重奏。それ意外の楽器はない。絵里ひとりが
オーバーダビングで自分のバイブに対峙する。それもこの作品を聴き心地のよいものにした。
 それともうひとつ。おそらくは細心の注意が払われて選曲も行われたのだろう。ほどよいジャズ感覚
を伝えてくれているのがここで取り上げられた曲目の数々だ。とくに最初の3曲が圧巻である。演奏も
さることながら、2台のバイブが会話をしているように音を追いかけ、追いつき、一方で追い抜かれる
のを待っている。このチェイスが絶妙だ。そしてそこから生まれるデュエットが聴くものをほっとさせ
てくれる。テンションもあればスリルもある。しかしそれが前に出ていない。そこが気持ちよく聴ける
理由だろう。いい作品である。今後の展開も非常に楽しみだ。
                                        (小川隆夫)


「ゆるぎない絵里の音楽」の確立を楽しみに待っている
 絵里というビブラフォン奏者のデビュー作である。彼女が2パートを奏でるという、1人の奏者によ
るデュオで、全曲が通される。演奏曲目はタンゴの革命家、アストル・ピアソラが残した(6)(7)に、サ
イモン&ガーファンクルの(3)、グリーグ「ペールギュント第一組曲」からの(5)と、幅広いジャンルか
ら選ばれている。それ以外の曲目はジャズのフィールドから選ばれ、絵里のインプロビゼイションのな
かに才能のきらめきを見るが、あらかじめジャズという枠組みを取り去って聴いた方が、ここにある音
と早くなじめるだろう。
 今作の特徴を伝えるには、プロデューサーの名前を知らせる必要がある。XUXUでおなじみの、伊藤
秀治プロデューサーである。鹿児島生まれ、種子島に育った絵里が、国立音楽大学に進み、XUXUを通
じて同プロデューサーに出会った。そして彼女の感性と、プロデューサーの音へのこだわりが合致して
「絵里」のプロジェクトが動き出したというわけだ。
「1/f ゆらぎに満たされたオルゴール」、とレコード会社サイドの宣伝にあるように、本作で意図され
た2台のビブラフォンが生む残響の強さが、好き嫌いをわけるだろう。私はといえば、音作りに向けら
れたパッションはリスペクトしているが、作り込まない、等身大の絵里を聴いてみたいという想いを強
くもった。「ゆるぎない絵里の音楽」の確立を、楽しみに待っている。
                                        (中川ヨウ)




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