これは伊藤プロデューサーならではの“突飛な”アイデアが見事に成功した作品だ。
クラリネットの中で最も一般的なB♭管とバスクラとのデュエットを主体とし、それを
パーカッションがバックアップするという編成もユニークなら、内容も実にユニーク。
クラリネット2本の響きあいを満喫できると同時に、ふたりのバーチュオーゾが繰り広
げる素晴らしい即興演奏に鮮烈な印象を受ける。伊藤プロデューサーの依頼でそのバー
チュオーゾ二人を選んだのはニルス・ラン・ドーキーだったそうだが、なかなかに考え
抜かれた人選で思わず納得してしまう。B♭管を担当するのは1934年生まれの英国人
トニー・コー。各種サックスやクラを手にクラーク〜ボラン・ビッグ・バンドのリード
マンからデレク・ベイリーとの共演まで幅広い視野で活躍を続けてきた名手だ。そして
バスクラを吹くのがスコット・ロビンソン。こちらは米国のマルチ・リード奏者で、
59年生まれとトニー・コーより世代が一つ下だが、やはりトラッドからフリーまで何
でもオーケイで、米国では批評家にもファンにも高い評価を受けている。そんなふたり
が、映画『シンドラーのリスト』のテーマ曲を中心に、それぞれがこの映画に抱く印象
を曲にしたオリジナルを含めて、美しい旋律のテーマや即興パートを絶妙の対位
法的動
きで綴っていくのだが、そこには摩訶不思議な音空間が現出し、何とも言えぬ
感興が沸
き起こる。
(大村幸則)
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