先月号の「現代フレンチ・ジャズ事情」で特集された“CAVA”(サヴァ)レーベルか
ら、5月26日リリースされる『パリからの旅 / ジルベール&リズ』は、このレーベルらし
い現代的なフレンチ・ジャズが聴けるアルバムだ。パリに続くフランス第二の都市であ
り、ジャズも盛んなリヨンを拠点にして活躍中のジルベール・ドジャーとリズ・アレク
シーによるユニットだ。ジルベールはテナー・サックス奏者 / 作編曲家
/ ピアニスト、リ
ズは歌手 / クラリネット奏者。彼らがフランス国立ジャズ・オーケストラから招集した十
数名のアーティストたちを迎えて、レコーディングされている。現代的でアーティス
ティック、そしてサヴァ・レーベルらしいおしゃれ感覚もあるジャズが展開されている。
サヴァは3361*BLACKのレーベルで、パリ発信のジャズを紹介する。ジルベール&リ
ズの『パリからの旅』はプロデューサーの伊藤秀治氏がコンセプトを考え、パリ在住の
ジャズ・ピアニスト、ニルス・ラン・ドーキーの協力を得ながら制作されている。ジル
ベール&リズはこれまでの作品とは異なり、サヴァでは初めてアーティストのセルフ・プ
ロデュースにより録音されたアルバムだ。そのいきさつを伊藤氏は次のように話している。
「ジャズ・フェスティバルの“ジャズ・ア・ビエンヌ”へ行ったとき、ソニー・ロリン
ズなどの大物たちよりも興味を持ったのが、ジルベール&リズのパフォーマンスでした。
彼らと会ったのはそのとき一度だけでしたが、いつものようにミュージカル・ディレク
ションはせずに彼らに任せて録音してもらいました。それがこの『パリからの旅』なんで
す。それからしばらく時期を置きましたが、サヴァ・レーベルのコンセプトやカラーに
ぴったりなので、サヴァからリリースすることにしました。サヴァの作品はジャケット写
真も私が撮影していますが、ジルベール&リズのジャケットは彼らが撮ってくれた写
真で
す。写真までレーベルに合っていました」
サヴァのアルバムはコンセプトが非常にユニークで、伝統的なジャズのスタイルにはと
らわれていない。それでいて難解にはならず、心地よい刺激を与えてくれるフレッシュな
ジャズを聴くことができる。いわば、伊藤プロデューサーが思い描いた現代のパリのジャ
ズ、フランスのジャズが具現化された音楽であり、パリにある既存のジャズを録音してい
るわけではない。ところが、偶然にもジルベール&リズの志向するジャズとレーベルのコ
ンセプトが一致したのだから興味深い現象だ。
また、サヴァの特徴としてクラシック音楽との接点もあげられるが、ジルベール&リズ
はクラシックにも通じたアーティストだ。ジルベール&リズはリヨンの音楽大学で講師も
しており、幅広く多彩な音楽活動を行っている。ジルベールは自己の作品のほかにイヴァ
ン・ジュリアン、ピエール・ドレベット、ロマーヌ&フレデリック・マヌキアン・オーケ
ストラなどの作品に参加している。リズはジャズ以外のジャンルのボーカルの先生もして
おり、PM Rendez-Vous、Le Swing Affaireなどの作品に参加。またリヨン・ハーモ
ニック・アンサンブル、リヨン・ナショナル・オーケストラなどで活動している。ジル
ベール&リズはジャズをベースにしながら多彩な活動をしている才人同士のユニットとい
える。
そんな彼らによる『パリからの旅』は、物語性のある組曲のような作品に仕上がってい
る。ホーン・アンサンブルやギター入りの大型編成のサウンドを得て、リズのスキャット
を含む優れたボーカル・テクニック、ジルベールのコンテンポラリーなサックスと作編曲
のセンスが光る。ラストにスインギーな小曲が収録されているが、伊藤プロデューサーに
よれば、ライブで聴いた彼らの演奏はその曲のイメージが近いそうだ。彼らから届いたア
ルバムを聴いたときの伊藤氏の驚きは、少なくなかったものと思われる。
(高井信成)
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