「サ・バ」レーベル

----- スイングジャーナル2004年6月号より -----

 

ジャズの楽しさのなかに溢れるフランス的なエスプリを聴く

 これはきわめて上質なサウンドだ。メロディアスで耳に快いので、フランス製のお洒落
なイージー・リスニング・アルバムとしても聴くことができるが、年期の入ったジャズ・
ファンをもにやりとさせるほど凝った作りでもある。その最大の要因は、ホーンを束ねて
ユニークな響きを聴かせるリーダー、ジルベールの作・編曲の手腕にある。凝ったアレン
ジが、ジャズの命であるスポンタネイティを減殺することはままあるが、ジルベールは発
送の根源にメロディをおき、なによりもメロディアスな美しさを重視している。そのた
め、アレンジが高度化しても、音の流れが不自然になったり、いたずらにメカニカルに
なったりすることがない。また、サウンドが分厚くなりすぎることもなく、室内楽的な軽
快さをつねにたたえている。楽しく優雅なのだ。そうかと思うといきなりエレキ・ギター
をフィーチャーしたり、民族音楽的な彩りを加えたり、ウエザー・リポート風のパノラ
ミックなサウンドをかましてきたりするから面白い。スーパー・サックスのようにアレン
ジされた長いラインを聴かせるところもあるし、(8) のようなトラックを聴けば、このグ
ループがジャズの伝統に魅せられ、それをよく消化していることが分かる。そうした細部
がうるさ型のジャズ・ファンを喜ばせるのだが、そのスイングぶりはあくまでも軽く優美
だ。ジャズの楽しさのなかにあふれるフランス的なエスプリを満喫してほしい。
                                   (中条省平)

 

 

“CAVA”レーベルからパリ発信ジャズの新作登場

 先月号の「現代フレンチ・ジャズ事情」で特集された“CAVA”(サヴァ)レーベルか
ら、5月26日リリースされる『パリからの旅 / ジルベール&リズ』は、このレーベルらし
い現代的なフレンチ・ジャズが聴けるアルバムだ。パリに続くフランス第二の都市であ
り、ジャズも盛んなリヨンを拠点にして活躍中のジルベール・ドジャーとリズ・アレク
シーによるユニットだ。ジルベールはテナー・サックス奏者 / 作編曲家 / ピアニスト、リ
ズは歌手 / クラリネット奏者。彼らがフランス国立ジャズ・オーケストラから招集した十
数名のアーティストたちを迎えて、レコーディングされている。現代的でアーティス
ティック、そしてサヴァ・レーベルらしいおしゃれ感覚もあるジャズが展開されている。

 サヴァは3361*BLACKのレーベルで、パリ発信のジャズを紹介する。ジルベール&リ
ズの『パリからの旅』はプロデューサーの伊藤秀治氏がコンセプトを考え、パリ在住の
ジャズ・ピアニスト、ニルス・ラン・ドーキーの協力を得ながら制作されている。ジル
ベール&リズはこれまでの作品とは異なり、サヴァでは初めてアーティストのセルフ・プ
ロデュースにより録音されたアルバムだ。そのいきさつを伊藤氏は次のように話している。

 「ジャズ・フェスティバルの“ジャズ・ア・ビエンヌ”へ行ったとき、ソニー・ロリン
ズなどの大物たちよりも興味を持ったのが、ジルベール&リズのパフォーマンスでした。
彼らと会ったのはそのとき一度だけでしたが、いつものようにミュージカル・ディレク
ションはせずに彼らに任せて録音してもらいました。それがこの『パリからの旅』なんで
す。それからしばらく時期を置きましたが、サヴァ・レーベルのコンセプトやカラーに
ぴったりなので、サヴァからリリースすることにしました。サヴァの作品はジャケット写
真も私が撮影していますが、ジルベール&リズのジャケットは彼らが撮ってくれた写 真で
す。写真までレーベルに合っていました」

 サヴァのアルバムはコンセプトが非常にユニークで、伝統的なジャズのスタイルにはと
らわれていない。それでいて難解にはならず、心地よい刺激を与えてくれるフレッシュな
ジャズを聴くことができる。いわば、伊藤プロデューサーが思い描いた現代のパリのジャ
ズ、フランスのジャズが具現化された音楽であり、パリにある既存のジャズを録音してい
るわけではない。ところが、偶然にもジルベール&リズの志向するジャズとレーベルのコ
ンセプトが一致したのだから興味深い現象だ。

 また、サヴァの特徴としてクラシック音楽との接点もあげられるが、ジルベール&リズ
はクラシックにも通じたアーティストだ。ジルベール&リズはリヨンの音楽大学で講師も
しており、幅広く多彩な音楽活動を行っている。ジルベールは自己の作品のほかにイヴァ
ン・ジュリアン、ピエール・ドレベット、ロマーヌ&フレデリック・マヌキアン・オーケ
ストラなどの作品に参加している。リズはジャズ以外のジャンルのボーカルの先生もして
おり、PM Rendez-Vous、Le Swing Affaireなどの作品に参加。またリヨン・ハーモ
ニック・アンサンブル、リヨン・ナショナル・オーケストラなどで活動している。ジル
ベール&リズはジャズをベースにしながら多彩な活動をしている才人同士のユニットとい
える。

 そんな彼らによる『パリからの旅』は、物語性のある組曲のような作品に仕上がってい
る。ホーン・アンサンブルやギター入りの大型編成のサウンドを得て、リズのスキャット
を含む優れたボーカル・テクニック、ジルベールのコンテンポラリーなサックスと作編曲
のセンスが光る。ラストにスインギーな小曲が収録されているが、伊藤プロデューサーに
よれば、ライブで聴いた彼らの演奏はその曲のイメージが近いそうだ。彼らから届いたア
ルバムを聴いたときの伊藤氏の驚きは、少なくなかったものと思われる。
                                   (高井信成)

 




 Copyright 2002 3361*BLACK, Ltd. All rights reserved.