名盤『オール・アローン』に次ぐ出来映えのソロ・ピアノ作
伊藤秀治氏の主宰する“3361*BLACK”から5か月連続して出されていた、マル
のマチュリティ・シリーズもこのソロ作で打ち止めとなった。彼の思索的な表情の
アップ写真が、カバーに印象的に使われているこのシリーズ、毎回伊藤氏のマルに寄
せた真情溢れるエッセイも楽しみで、2人の交遊・交情の深さに感心させられること
もしばしば。さてそのソロ作だが、96年の夏に小淵沢にあるホールで録音されたもの
で、ラストの<リメンバー>は、そこでのライブのようだ。97年の終わりに本邦発売
され、その時のタイトルが『マチュリティ』。彼の円熟振り(マチュリティ)が良く
うかがえる好ソロ作として、高く評価されたが、それだけに伊藤氏にとっても愛着深い
ものだったはずで、今回のシリーズ名として、真っ先にこの言葉が思い浮かんだに違い
ない。ところで、マルのピアノは、いい意味で大いなるマンネリでもあるのだが、ここ
での穏やかなプレイが伝えるものは、温かみがあり深い。そして何よりも、気持ちが和
み心地良い。コアなジャズ・ファンにとっても、結構ある種のヒーリング効果
もありそ
うだ。晩年の彼は概ね落ち着いた、恬淡の心境にあったようで、その平穏な喜びがスト
レートに聞くものに伝わってくる。スタンダード中心(バラード)の選曲だが、自作の
Iでのナレーションもいい。内省的演奏の名盤『オール・アローン』とは好対照ながら、
それに次ぐものと言える。
(小西啓一)
|