「パリ発
1256 / チェロ・アコースティックス 」
いい音色の代名詞とも言えるチェロのみでアンサンブルを構成し、これが中音域中心にサウンドを安定さ
せる。その前をピアノの88鍵が縦横無尽に動き回る。やはり低域はコントラバスに任せて重量
感が出る。
この発想は3年程前だったでしょうか。
及川公生氏と共に、「空間の音」を大切にした一発録りのアコースティック・ジャズを基軸に、ジャンル
を越えて音楽が生活に与えてくれる、くつろぎと感動を考えてきました。ジャズとクラシックとの融合とい
うのは好きではないのですが、欲張って双方が持っている長所はほしいと思うのです。「ジャズの楽器」と
いう既成概念を作らず、いい音は聴きたい、その意味で私にとって最も魅力のあるのは、チェロです。弦楽
四重奏でジャズを・・・というのも嬉しい企画ですが、結局チェロがベース・ラインを弾いたり、バイオリ
ンが2本ある無意味さや、譜面にかじりついているのが音に見えたり・・・、これはカルテットという伝統
の編成を崩せないからでしょうか・・・。ジャズ・グループのベースも、ピチカート奏法だけで良しとせず、
弓の美しい音もいっぱい聴かせてほしい・・・とか。「ジャズを室内楽ホールで聴きたい」などなど、いろ
いろな思いが重なって、「CELLO ACOUSTICS」の誕生です。
発想の段階から楽器編成以外に私の中で決まっていたことは、「CELLO
ACOUSTICS」という名前と、縦
横無尽に動き回るピアノは刃物的奏法のニールス・ラン・ドーキーだ、ということです。バイオリンを考え
なかったのは、ピアノの高域と喧嘩をさせないためでした。さてチェリストですが、アンサンブルをカウント
・ベイシー楽団調にスイングさせたい、しかしニューヨークでも見つからず、その時にはさすがに焦りを感じ
ました。解決はパリがつけてくれました。パリでは、クラシック・ジャズ両刀使い、しかも両方が半端でない
ミュージシャンの層は厚いのです。ベーシストも、女性でこんな凄い人がいるんだ・・・、と大感激でした。
そして、何よりも嬉しかったのは、彼らがこのプロジェクトにものすごく興味を持ってくれたことです。
「CELLO
ACOUSTICS」の重要な2点は、メンバーのジャズ・スピリットと、小粋なアレンジです。この
プランに身をのり出してくれたのは、カウント・ベイシー楽団のアレンジャーの中でも最も評価の高いアー
ニー・ウィルキンスでした。ところが、このプロジェクトが動き出してまもなく、彼は病で入院し、譜面
を
書く手が利かなくなってしまったのです。すぐにリハビリと共にコンピューターの勉強を・・・と、70歳に
して凄い気力を見せてくれましたが、さすがにレコーディングまでに全曲は間に合わず、新鋭クラウス・
スオンサーリに手伝って貰うことにしました。彼はアーニーと私が意図するところを的確に把握し、しかも
1曲1曲に新しさを絶妙に加えコンセプトに正確にはめ込んでくれました。
及川公生氏と、「このグループはやはりホール録音で」と意見が合い、パリのコンサート・ホールに
96KHzハイサンプリングの新製品D-07を持ち込みました。その威力が発揮されました。アメリカで築いてき
たジャズの歴史や、ヨーロッパのクラシックの伝統に左右されることなく、いい音をぶつけあったつもりです。
1992年 12月
Musical Direction : 伊藤秀治/3361*BLACK
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